リップスティック(1) [VHS]
野島伸司さんの作品で、わたしが一番すきなのが本作です。
初見にて思ったことは、藍ってなんて嫌な女だ!ということでした。彼女のすることに予想が付かず理解もできず、そしてまるで衝動で動いているように見えたから。
しかし、見続けていると彼女の純粋さが鋭利な刃物のような真剣さで迫ってきます。彼女は怖いくらいに真っ直ぐで正直です。大人がする駆け引きのようなものを一切しない。一見ああ言えばこう言う女の子に見えますが実際は違うんですね。回を重ねるごとに藍が好きになっていく自分に驚きました。
広末涼子の演技もさることながら、三上博史の抑えた演技がすごい。穏やかなだけではない陰のある男をみごとに表現しています。
いいドラマとは結末が気にならないものだということを知りました。
かといって、この作品は昨今のドラマのように衝撃的な内容にものを言わせているのでもけしてありません。
主役以外のキャストもすばらしく、若き日のいしだ壱世の演技は特に心に残っています。
この作品を一言で表現するならば“心に刺さるドラマ”だと思っています。
大阪物語 [VHS]
キャッチコピーがバツグンに上手いので引いておく。「元気でも、泣く。 14才。 ごっつしんどい夏でした。」
売れない夫婦(めおと)漫才師を親にもつ少女の、ひと夏の出来事と冒険、そして成長。少女もの、というより「トム・ソーヤーの冒険」のような少年小説の匂いがする。市川準の映画はいつも街のスケッチが素晴らしいのだが、ドラマが(私には)薄味すぎた。だが、本作では犬童一心(「二人が喋ってる。」を撮った自主映画作家。世田谷出身なのになぜか関西演芸オタクだそうである)を脚本に起用したのが成功して、夏の陽射しと汗の臭いがすがすがしい佳作となった(大阪弁、というのも大きいかも)
“鷲尾いさ子の小さい頃”みたいな顔の池脇千鶴は撮影時15才、地元・大阪での撮影のためか自然な演技が素晴らしい。この娘だけでも、この映画を観る価値がある。沢田研二と田中裕子は!役者としては巧いのだが、吉本の本物の芸人たちと並ぶと、まったく芸人臭さがないのが致命的ではないか。
誰がために オリジナル・サウンドトラック
カサドゥシュ、ゼルキン、アシュケナージ、メルテン、ピエール・ロラン・エマール、エヴァンス、ヘイグ、もちろんグールド。偏愛する(本当に偏愛だなー・・・)ピアニストたち。しかし、ここで聴ける矢野のピアノは日本人が世界に誇れるピアノの音の最高峰です。何と潔く、何と背筋の伸びる音であることか!
いや、ここで聴けるピアノはおそらくは歌、なのでしょう。声とピアノを同時に等価に最上の表現に成しえる、そしてその二つが別々に鳴ってもそれが最上の表現として豊かである世界でたった一人のアーティストであることをしみじみと、深々と楽しめます。
矢野ファンはもとより、ジャズ・ファン、クラシック・ファンのみなさん、どうぞ聴いてください。アナタの国にはこんなに世界的な市井のピアニストがいます。
月刊 池脇千鶴 (SHINCHO MOOK)
この作品は傑作だと思います。
池脇千鶴はここで、いわば「汚れ」を演じています。
パンツ丸見えの極小ミニで通りを歩いて見せたり、
朽ちかけた廃船の中で眠そうな表情で大きく股を開いたり、
浜辺のコンクリート製のシャワールームで自慰をしたり、
衝撃的な写真が満載です。
ですが、彼女が演じると、「堕ちた」感じがしない。
なんだかホッとする。温かい感じがする。
それが彼女の女優としての魅力なんだろうと思う。
昔、高校時代にちょっとつきあっていた彼女、
セックスもしないままに別れた彼女と
久々に田舎で再会して、
なんだかお互いに知らないところでいろんな経験をして大人になった
ことにちょっと照れつつも、
まだ気持ちがまだつながっていたことを
気づき合うみたいな物語が自然に浮かんでくるような写真集です。