Word of Mouth
ニューヨーク、マンハッタンを背中にFenderのフレットレス・ベースを逆さに背負って闊歩する長身のチョンマゲ結った男がいる。その男こそジャコ・パストリアスだ。ジャコは1987年9月21日(Mon)、午後9時25分、乱闘による負傷が原因でフロリダで死去。享年35歳。
ウエザー・リポートのベーシストとして、世界で最も低い音を出しながら『ヘビー・ウエザー』あたりから参加。ジョー・ザビィヌル、ウエイン・ショーターといったビッグ・ネイムと互して、凌駕してしまったその天性の力は1981年『Word of Mouth』という傑作で一つの頂点を迎える。
フロリダのフォート・ローダーディルにあったジャコの自宅に、24チャンネルのライブ・レコーディング用トラックを駐車させ、その傑作は出来上がった。最初の曲『クライシス』は最初にベースとリズム・トラックだけを録音し、次にソロイストを一人ずつにベース以外何も聴かせずにオーバー・ダビングして作られている。ジャコ以外誰一人、どんな作品になっているのか知らされていなかったという。 最高作『リバティ・シティ』では彼が実は何がやりたかったかが如実にでている。『ああ、ジャコ、君はこういう風にやりたかった訳か。』と言ってやりたいくらいすばらしくオリジナリティあふれている。トゥーツ・シールマンのハーモニカ、スティール・ドラムの音、ハービー・ハンコックのピアノ、そしてジャコのベース。すべてが渾然一体となって、ひとつの生命体になりマイアミの空へと歩を進めているような気がする。至高だ。
ジャコがこの一つの頂点を迎えていたとき、日本の『Aurex Jazz Festibal』にやってきた。1982年9月5日、横浜スタジアムに僕は彼のビッグ・バンドのライブを聴きに行くことができた。のちにライブ盤『TWINS』という名前でI とIIに分けられて発売されている。
トゥーツ・シールマンやランディ・ブレッカーといった業師の中、ジャコのベースは冴えまくっていた。やはり、『ソウル・イントロ/ザ・チキン』、『コンティニウム』、『リバティ・シティ』と続いた演奏は筆舌に尽くしがたい物だった。歴史の一部を見ている.......そういった感じだった。
そんな彼も最期は、愛用のベースを売り、マンハッタンの路上で自分のレコードを売り歩くようになった。
強烈に光輝き、燃え尽き、乱闘が原因で、35歳で死ぬ。そういう人生もあるのだろう。確かに人生はなんでもありかもしれない。でもジャコ、僕は君が何を言いたかった解ってるつもりだよ。既に彼の死んだ年を越え、これからも生きて行くだろう自分を、時に遠くから眺めながら『Word of Mouth(口伝)』....彼が口から口に何を伝えたかったのか、を考えながらこのアルバムを聴いている。
Hejira
渋谷陽一氏が、このアルバムについて、「朝起きたら外は一面の銀世界。しかし、空は曇っている」と評しましたが、言い得て妙です。私も、このアルバムを初めて聴いたのが、ロンドン滞在中の冬の時期であったので、このアルバムを聴くたびに冬のロンドンの曇り空を思い出します。
ビートルズ、ボブ・ディラン、マイルス・デイビス・・・偉大なるミュージシャンは、自己の表現スタイルを進化させますが、ジョニ・ミッチェルも、すばらしい進化を遂げたミュージシャンの1人でしょう。「青春の光と影」などギター1本で、伝統的フォーク・ミュージックを歌っていたシンガーが、ジャコ・パストリアスなどジャズ・ミュージシャンの力を借りながら、誰のスタイルの模倣でもない、ジョニ・ミッチェル・サウンドとしか形容のしようのない音の世界を完成させたのが、本作です。まさしく、ワン・アンド・オンリー。先人もいなければ、フォロアーもいません。
本作の魅力は、このワン・アンド・オンリーの「曇り空」の世界にあります。ここには、軽快なポップ・ヒット曲もなく、また、悲痛な短調の曲もありません。ジョニの変則チューニングによるギターとジャコ・パストリアスの反則技ハーモニックス・ベースで織りなすふわふわとしたサウンドは、ロックとかジャズとか既存のジャンルを超越した独自の世界で、彼女のボーカルは、あくまでも軽やかに、クールに訴えます。
音楽の芸術的な評価を独創性に求めるとすれば、本作は、ロック史に残る大傑作と位置づけるべきでしょう。
なお、このアルバムを聴いて気にいった人は、ビデオ・DVD作品「Shadows And Light」をお薦めします。ジャコ・パストリアスの変態ベースも楽しめます。
Jaco Pastorius
我が音楽人生における幾つか痛恨のミスの1つは、存命中のJ.パストリアスに対して恐ろしい程無関心であった点です。Weather Reportというバンドも、そこに彼が居た事も知ってはいましたが、それ以上接近することはありませんでした(まぁ、元来がギター派でしたので)。自身の音楽的嗜好がロックからジャズ/フュージョン系へとシフトし始めた頃、J.パストリアスはもう居ませんでした。
彼によって塗り替えられ、或いは創造された世界(狭くはベースプレーのレベル、広くは音楽的なレベル)が如何に大きく広かったかは、今なお音源が掘り起こされている事を考えれば自明でしょう。
本作('76年作)はそのJ.パストリアスの1stソロですが、ベースプレーに対する驚きは言うに及ばず、音楽的なフィールドの広さにも目を見張るものがあります。バップをベース一本で解釈した[1]や余りにも美しい[3]など、今なお語り継がれるジャコのプレーが、どれ程他のベースプレーヤーに影響を与えたかは想像に難くありません。
彼が天才だったのか、それとも紙一重の側に居たのかは判りません。ただ(後年の言動は別にしても)、彼が間違いなく偉大なジャズプレーヤーに"なり得る"事を証明した作品として私は本作を捉えています。
LIVE IN JAPAN
この音源は、武道館Live at "Donna Lee"と1982 twins に収録されている。
このような映像が残っているのはとても貴重であり、素晴らしい。
自分はまだ十代でジャコに憧れ、今もベースを引き続けている。彼が生きていれば、今もまた来日し、liveを観ることができたかもしれない。だからこそ、彼の死後に生まれた自分にとって、二度と生で観ることが出来ない彼のプレイは新鮮であり、自分のプレイにインスピレーションを与えてくれるのだ。
画質の面では、当時の映像VHSをDVDにしただけだから、文句をつけることはできない。
だが、もう少し改良を加えることは出来なかったのだろうか。
彼のプレイ、最盛期の姿を見たいのなら、是非ともオススメしたい。
無論、ジャンルに関係なく、全ベーシスト必見の映像だろう。
モダン・エレクトリック・ベース [VHS]
このビデオでジャコは、「チキン」を楽しそうに演奏しています。
ジャコ・パストリアスは、「チキン」というファンク/ジャズのスタンダード曲をよく演奏しました。
ジャコはどのライブ、アルバムでもゴキゲンに「チキン」をプレーしました。
あまりにいろいろなところで演奏し、またジャコにピッタリな曲なので、自分はこの曲がジャコのオリジナルだと思っていました。
(作曲者はAlfred Ellis。事実は異なりました。)
「ポートレイト・オブ・トレイシー」や「ハヴォナ」などと並べて、「ジャコの代表曲」と言ってもいいと思います。
(もちろん他にもたくさんありますが)
「チキン」でのジャコは、音も顔つきも楽しそうだな~。