この国を壊す者へ
文体がこれまでの佐藤優氏の著作とは異なる印象を持つ。それは文章一つ一つが言い切り型が多く、遠慮なくズバズバ相手を斬りつける感が強いからであろう。これまでの氏の文体は、事実を述べながらも、相手をグサリとやるのではなく、証拠をバラマキながら遠くからじわじわ締め上げて行くような文体であった。
この本の内容は週刊アサヒ芸能に「ニッポン有事!」と題して連載した文章であり、文中で氏も述べているが、「(内容を)できるだけ面白く書くようにつとめている」とのことだ。一定の読者層を想定して書いていると思うので、読みやすい内容となっている。
ただし、「事実を曲げたり、水準を落とすようなことはしていない」とのことなので、読んでいて気持ちが良い。一つずつの単元がテーマを持った読み切りとなっているので、どこからでも読める。
「統治」を創造する 新しい公共/オープンガバメント/リーク社会
「統治」、「オープンガバメント」といった概念について哲学・社会学・経済学など様々な側面から書かれた論文集。
個人的には思想史的な流れをくんだ3章と4章、法哲学的見地を盛り込んだ7章が従来の興味と重なっているが、論者の多様性が自分のこれまでの観測範囲外からの面白い話が”良いノイズ”として紛れ込みやすくなっているので、一冊の本としてはお得な印象を持つ。
特に、これは「あとがき」で編者の塚越健司も書いているが、学者からビジネスの実務家、批評家など幅広いジャンルの書き手が名を連ねており、この一冊だけでもそれなりに多角的視座を取得できるような作りになっている。
例えば「震災時のソーシャルメディアによる有用性評価」という点では、5章は比較的良い方向で捉える一方、6章や9章では否定的に書かれている。そもそもネットが利用できる環境に”被災地”があったのかということについては、震災から少し経過した後で頻繁に語られるようになったが、この辺の評価の差も出自や視座の多角性を象徴しているように思う。
ただ、そのような良い点と表裏一体の話ではあるが、もう少し読み込んでみたいようなモノも中にはあり、これは今後の各筆者の活躍に依るところだと思う。
飽きっぽい性格だが一気に読めた。ただ、.reviewが事実上停止状態なのが個人的には悲しい。それは、.reviewという媒体そのものがオープンガバメント性を有した、これまでの評論系同人誌には無いものだと感じていたからだ。
本書の元は、その.reviewの勉強会だという。そのフィロソフィーは別な形で継承されることを(偉そうに)期待しています。