神阪四郎の犯罪 [DVD]
「真相は薮の中」。そんな映画です。
森繁は偽装心中の嫌疑で起訴された雑誌編集長を演じています。
法廷での関係者の証言による回想場面で森繁は、ひとりの人物を様々に演じ分けていて、
この映画を観た後にずっしりと残る“凄み”は、森繁の“技量”と、心中相手の役の左幸子の
“狂気”に因るところが大きいように思われます。
この時期森繁は、アチャラカものも含め、多くの映画に出ており、DVDになってるものも
多くありますが、森繁の“凄み”を体感したい方、この作品はオススメ。
青春の蹉跌 (新潮文庫)
石川達三の作品は正直古臭いものが多い。
結婚観とか男女間とか。。。
でもたまに当りがある。
本作がそうだし、他には個人的に「望みなきに非ず」。
こういう小説が読みたくてしょうがない。
でも、何か特殊な題材をもってきたり、
特殊なテクニックを駆使しないといけない風潮が多く、
本来の小説のあり方をかけ離れてきた気がする。
テレビドラマや映画なんかも実は一緒で、単純であることは悪であるかのよう。
ベタでもいい。
とにかくこんな小説が読みたくてたまらない。
生きている兵隊 (中公文庫)
戦中に書かれた作品であり、おそらく反戦とか反日とかは全く意識していなかったと思われる。人間として兵士をとらえる、その兵士の気持ちになってみる、そういう視点で書かれた作品ではないだろうか。そして真に迫りすぎた上、発禁になった。そういう本だ。
南京大虐殺関連で「大殺戮の痕跡は一片も見ておりません」という否定派としての言質がとられているが、その人がここまで描いていた、という点に注目すべきであろう。「大」虐殺ではないが、虐殺は描いているのである。よき夫であり父である心優しき人たちが、いとも簡単に非戦闘員の命を奪っていく。それはやはり狂気だ。いかにして兵士は狂気に染まっていったのか。その描写が真に迫る。
戦時下だなぁ、と思わせたのは、南京を落とした後、転戦していく兵士たちの士気が高いように描いている点。首都・南京を落とせばこの戦争に勝てる、故国に帰れる、だから兵士たちはがんばっていたはずだ。南京を落としても戦争が続くことに兵士たちは落胆していたはずである。士気が高いままであった、というのはウソだろう。著者は戦意の高揚をねらってこの本を書いたのである。
金環蝕 [DVD]
政権与党の総裁選挙にまつわって党を2つに割る激しい選挙戦(実弾が飛び交う)の結果3選を決めた寺田内閣の官房長官星野(仲代 達也)から極秘に金融業で一代を築いた老人石原(宇野 重吉)の元に秘書官西尾(山本 学)が金策に来ます、その額2億円。これを断った石原は星野の身辺に探りを入れ、官房長官星野は政府出資の電力会社の福龍川ダムの受注入札に関わる談合とその見返りの政治献金をもって、総裁選に費やした金を埋めようと試みるのですが、そこにもいくつもの思惑が絡み・・・というのが冒頭の展開です。
始まってすぐ、三國さん扮する政治家神谷というおどけ、しかし腹の据わった感じをわずか数秒の台詞と、おもわず開いていたチャックを閉める、というその2つのシーンだけで分からせる演出(チャックの部分はアドリブなんでしょうか?上手い!)から、既に心を持ってかれましたが、その後に出てくる金融屋の老人石原役の宇野さんが素晴らしすぎる!正直台詞の滑舌悪いですし(ま、そういう役柄なんですが・・・)、聞き取りにくいのですが、そういったことを差し引いてもとんでもなく上手い演技です。もう目の据わり方、傾げ方、所作の一つ一つ、そして本当に目を光らせる事の出来る演技ってスゴイです。対照的な官房長官星野の抑えに抑えた演技とやはり目を冷たく光らせる部分の演技もスゴイです。この2人の対決がもう素晴らしい。しかもそれ以外の役者さんも秀逸なんです。
竹田建設社長のゴマすり(スゴイ変わり身)、新聞社のダメ社員のダメ男っぷり(峰岸 徹ってカッコイイ人だったんですね)、新聞記者の厭味な笑顔(前田 武彦と鈴木 瑞穂がホントにいや〜な感じです)、妾さんの中村さんがまたとても生活感あって妙にリアル、電力会社総裁の酔っ払い具合と知らん顔のそぶり・・・もうきりが無いくらいいろいろと濃いのです。
出番は少ないものの、非常に現実味ある(おそらくこの中では中立的にさえ見えてしまう)法務大臣役の大滝さんの演技も光るものがありました。しかし出てくる人ほぼ全員が黒い。まさに『金環蝕』です。
最後の予算委員会での怒号と掛け合い、はぐらかしと保身が、非常にリアルな脚本だと感じました。本当の事件も相当に根深そうですね。